ベンチで腰掛けてると大きなお姉さんが僕に 話しかけてきた。 「これ、あげる。」 大きなお姉さんは僕にジュースをくれた。 炭酸のジュースで、僕は大好きだったけど 今はそれを飲み干すほど、元気はなかった。 「大変だったね。」 お姉さんが僕に言った。 僕はちょっとビクッとしてお姉さんの顔を見 た。 僕が見たのを気づいて、お姉さんは僕にむか って笑顔をくれた。 笑顔に対しては無意識に微笑みたくなった。 でも、さっきの大変だったねという言葉から 今はやさしくてもそのうち、このお姉さんも 僕に聞いくるのかもしれない。 僕はそう思って怖くなってきて ガタガタと震えた。 「どうしたの?ジュース飲まないの?」 お姉さんが優しければ優しいだけ、 僕は怖くなってきていた。 「お姉さんもあの大人の人たちと同じなの?」 僕は聞く勇気も本当はなかったんだけど、 お姉さんがあの大人の人たちは違うことを 願って、真正面から聞いてみた。 「ううん。私は君がどうして大変だかは知らない。」 「なら、どうして。ジュースくれて。大変だって」 君の色が薄れてるからだよ。とお姉さんはうつむくように言った。 「色って?僕は肌色だよ。青い服着てるけど みんな肌色だよ。」 「なんて言ったらいいかわからないけど、 君はいい色してるよ。けど、黒い人たちが入ってきて 君は灰色になりかけてる。」 僕には難しくてわからない答えだった。 それでもお姉さんは優しく撫でながら教えてくれた。 「このままだと、君は私みたいになっちゃうから、ううん。もっとひどいかもしれない。 だから、私はあなたと遊んであげるの。」 遊んであげるってお姉さんは言った。 「私の名前は片瀬伊織。よろしくね。 真一君。」 お姉さんは本当に僕のお姉さんになった。 それからの記憶は曖昧だ。 片瀬伊織は僕の親戚で、僕はそこに預けられることになった。なんでそうなったんだっけ。 記憶は曖昧だ。 僕は伊織のことをいおねえと呼んだ。 彼女は公立の高校に通っていて、 終わるとすぐに僕のところへ跳んで帰ってきて、僕と遊んでくれた。 伊織と出会ってから3年ほどたった よく僕はおねえちゃんと遊んでばかりいると 学校の友達にからかわれた。 むしろ、羨ましがられてたのかもしれない。 でも、其の頃の僕はそれを間に受けてしまって、しばらくいおねえと遊ぶのは控えたかった。いおねえが公園行こうと言っても、 僕は 「やだ、ゲームしてるほうが楽しい。」 といって断った。 そしたら、いおねえは じゃあ、あんまりうまくないけど、私も一緒にやるといって、いつも一緒に遊んでくれた。 公園で遊ぶのは恥ずかしかったけど、 家で一緒にゲームするのは 二人だけの秘密といった感じで、大好きだった。 そんなある日、いおねえは言った。 「ごめんね。お姉ちゃんね。遠くに行くことになったの」 重要な話のはずなのに、記憶はとても曖昧だ どこへ行くのかも、どうして行くのかも覚えていない。 「真一君も色々大変だと思うけど、もう 小学××年生だもん。大丈夫だよね。」 そういって、彼女は僕の前からいなくなった。 別にいなくなったわけではない。 今もどこかで元気に仕事をしてるのかもしれない。 いなくなった理由だって、多分留学かなんかだろう。成績のよかった彼女のことだから、 多分そうだと思った。 でも、やっぱり、一緒にゲームをやっていた 時のこの部屋を思い出すと、とても寂しくなった。 一章 記憶 「真一君〜。怜〜。ご飯よ〜。」 はーいと僕は告げ。すぐに起きた。 僕の素行はなるべくよくしなきゃいけない。 今日から、また新しい家族との生活が始まるのだ。 もう高校3年の半分くらいなのだが、高校も転校してきて、 今日から初登校することになっている。 両親が死んで、志木泊を告ぐのが僕だけになった後2,3の家族を移動した。 どうしてそんなにたらいまわしのようにされたのかは覚えていない。 色々事情があるのだろう。 2個目の家族の片瀬家にはかなりよくしてもらった。けど、僕はいおねえ以外の記憶はほとんどなかった。 そのあとの家族はほとんど覚えてない。 僕は表面上いい子を演じる。 いや、演じるしかなかった。 其の為だろうか、その場で言葉を考え、 その場でいい子を演じる僕はいつだって、 其の時の会話。誰がどういったのか。 僕がどういったのか。 覚えてないのだ。 印象がない人だと、名前すら、覚えられない。 でも、その会話の中だけでは名前もどういった会話をすればいいか。頭で考えるのではなく口が自動的にしゃべってくれる 記憶力がないわけではない。 成績だって、1番ではないものの、 上から数えたほうが早い。 口数も多いほうではないが、話せる友達といえるような存在も多いのだ。 けど、まるで、それは体がいらないことのようにとってしまって、右耳から入ったことばが左耳から出てるような感じだった。 僕は薄情な人間なのだろうか。 よくわからない。 自分の両親がどうして死んだのかさえ、 覚えちゃいないんだから。 僕はすばやく制服に着替えると階段を 降りて、居間に向かった。 「おじさん。おばさん。おはようございます。」 「あらあら、真一君そんなに改まらなくてもいいのに。」 「いえ、これから、養っていただくのですから。こんなこと当たり前です。」 「おぉ。偉いぞ真一君。これからはうちの息子だ。だっはっは。」 「成績も優秀。素行も完璧。おばさん、 鼻が高いわ〜。」 あ、さめちゃうから早く食べなさい。と 言って、おばさんはキッチンのテーブルに 案内してくれた。4つかなり使い込んでいる椅子があるうち、1つだけ、目新しい椅子が ある。多分、僕の席だろう。もう慣れっこだ。 「もうすぐ怜もくると思うんだけど・・。」 高島家にはおばさん、おじさん(名前は忘れた。)とその息子の怜がいる。 初めてあったとき、怜は明るく、僕に接してくれた。僕の表面上の明るさを怜は気に入ってくれたのかもしれない。 今日から通う公立の高校も一緒に行くことになっていた。 僕はもぐもぐと朝食をほうばる。 ご飯と納豆、味噌汁。 あと漬物と焼き鮭、いたってシンプルな 和食だ。僕にはありがたい。やっぱり日本人は朝食は和食でないと僕はだめだと思う。 僕が朝食を半分近く食べ終わる頃。 あわただしく、怜がやってきた。 「あぁ〜そうだそうだ。今日は真一いるから早く学校いかなきゃいけねーんだった。 あっははは。」 「昨日、またゲームしてたでしょ。 早く寝ろって言ったのに。」 「いやー真一が一緒にオンラインゲームしてくれてたから、楽しくて、楽しくてあっはっは。」 「真一君のせいにするんじゃないの! 真一君はあんたより1時間も早く、降りてきたんだから。」 「うわ〜えらいな!真一!まぁ、いいや それより早くメシメシ。」 はいはいといっておばさんはご飯を盛る。 朝が弱いのだろう。 昨日寝たのは十一時ぐらいだ。 怜は流し込むように朝ごはんをかきこむと おばさんにむけおわんを渡し、大きな声で 「おかわり!」 といった。元気で気のいい奴なのだろう。 こういう人は嫌いじゃない。 けど、僕は怜のことも忘れてしまうのだろうか・・・。 僕は食べ終わると、ごちそうさまでしたとおばさんに告げた。とてもおいしいご飯だった。 僕は食器をかさね。流し台において、スポンジを取った。 「あ、いいのよ。真一君。わたしがやっておくから、真一君は今日の用意でもしてらっしゃいな。」 今日のしたくは昨日のうちにしといた。 時間はあるし、食器ぐらい洗うんだが。 「支度はすんでますし、これぐらい洗います。」 「偉いわね〜。真一君。でも、気持ちだけでも嬉しいのよ、ほら、真一君がこれやっちゃったら、わたしの仕事なくなっちゃうから。 真一君はテレビでも見てて頂戴な。」 おばさんはそういって微笑んだ。 おばさんの笑顔を見ているとこっちも笑いたくなる。そんな暖かな笑顔だった。 「やっぱり、真一君はよくできた子だ! こいつなんか、手伝うって気持ちすらないんだからなっ だっはっはっはっは。」 おじさんはそういって、怜を指差して 大笑いしてた。 怜はそんなことないやい!といいながら 流れ作業のように支度を済ました。 「よーしっ。んじゃ、真一行こうぜ。 初登校、元気になっ!」 そういって、怜は僕の首根っこをつかんで玄関から飛び出した。 学校までの道のりはずいぶん静かなものだ。 前いた学校は都内だったためか、 朝なのにも限らず、通勤する人、登校する生徒で、ごってかえしてたもんだ。 僕は怜と他愛もない会話をしながら、畑道をあるっていた。 しばらくして、住居区のようなところに入った。 「んでさ〜。今度でるオンラインのね。」 「うん。」 「お、よっしくてる!」 怜と話ならがら道を曲がると、 怜が知り合いを見つけたらしく。 怜は僕との会話をいったん中断し、 がたいのいい、多分クラスメイトと話し始めた。 「あ、りょうおはようぅ〜」 「おっはよ〜!おまえ相変わらず眠そうだなっ」 「そんなことはないとおもうよぉ〜。」 がたいのいい人は体に似合わずゆっくり言葉を選んで、しゃべっている。 確かに眠そうでもある。おとなしい性格なのかもしれない。 「あ、そうそう。しくてる紹介するぜ。 昨日から俺の家に居候してる真一。 えーっと。苗字はー。」 居候って・・・。 苗字がわからないようだし、自分で 自己紹介することにした。 「志木泊。志木泊 真一。よろしく。」 「あ〜。りょうの親戚だって話だね〜。 僕の名前は詩鞍 輝義。みんなしくてるって よぶんだぁ〜。よろしくねぇ〜。」 「そそ。しくてる。真一いじめるんじゃないぞ〜。」 「なにいってるんだぃ。りょうのほうがいじめそうじゃないかぁ〜。」 「あはは。そうだよ。」 「こいつ言うじゃねぇかー!」 そういって笑いながら 怜は輝明と僕を羽交い絞めにする。 「やめてよぉ〜。りょう〜」 思ったとおり、輝明はおとなしい性格のようだ。おとなしい性格ゆえに怜によくいじられるのかもしれない。 僕は羽交い絞めを受けながらあはははと愛想笑いをしておいた。 「それぐらいにしときな。りょう。」 「あぁん?」 羽交い絞めをしていた怜の前に仁王立ちでポニーテールの女子が立っていた。 「おぉ。沙希先輩!お久しぶりっす!」 怜は羽交い絞めをかけたまんまその女子に 話しかけてた。 「お久しぶりってアンタ、昨日あったばかりでしょ。 それより! いい加減離してやりな。馬鹿りょう〜〜〜」 「あいててててて、ちょっと耳は、あ〜〜〜 助けてくれぇええ。」 沙希先輩と呼ばれた女子はりょうの耳を引っ張ってどっかへ連れてってしまった。 やっと僕たちはりょうの羽交い絞めから 開放された。輝義は疲れたのか。地面にペタンと座った。 元々遊びでやっていたようなもんだから開放も何もないのだけど。 輝義が立ち上がって。 あはははと輝明と一緒にあわせて笑う。 「あの人は、沙希先輩っていうんだよぉ。 夢丘 沙希先輩。いい人なんだけどねぇ〜。 りょうに大しては厳しいんだぁ〜。 幼馴染だっていうのもあるんだろうけどねぇ〜。僕たちがよく遊んでるメンバーのなかではぁ。姉さんみたいな感じなんだよぉ〜。」 輝明がたどたどしくもゆっくり説明してくれた。 「へぇ。みんな仲いいんだなぁ。これで全員なの?」 「あ、あと〜ひとぉ・・・。」 輝義が言いかけたとき、輝義の背中から、 小柄な女子が飛び込んできた。 「だーりぃん!おっは〜!!」 「あ、アイちゃん・・・。」 「どしたのぉ!だぁーりん!なんでちゃんづけなのぉ!!」 「いつもそうだよぉ〜・・・。」 「ひっどい〜!ダーリン私のこと好き?」 「な、なんでいつもアイちゃんは僕のことからかうんだぁ〜。」 また仲良しグループの一人だろうか。 しばらく輝義を追い掛け回したあと、 「あ、みないかおだね!!」 アイと呼ばれる女子は気づいたのだろうか。 僕に向かっていった。 「うん。りょうの親戚のぉ〜。真一君っていうんだよぉ〜。」 「へぇ〜。あの馬鹿のねぇ〜。」 「そ、そんなこと言っちゃ駄目だよぉ〜。 アイちゃん。」 「アイだよぉ〜。向島藍!よろしくねぇ〜 真介君〜!!!!きゃはは」 「真介じゃなくて真一くんだよぉ〜。」 真介・・・。 藍に自己紹介をしてもらって、すぐに りょうが帰ってきた。耳が紅くなってて、 頬も赤くなってた。 「また・・。姉さんにしぼられた・・・。」 どうやら、りょうはお疲れなのかもしれない。 「大丈夫?」 「あぁ、大丈夫だ。それより、真一。 一通り挨拶すんだか?」 「うん。多分。あ、沙希先輩だけしてないけど。」 「んまぁー。そのうち姉さんにも挨拶する機会があるっしょ。こいつら、みんな近所だからさ。ある程度一緒に行くんだ。別に待ち合わせするわけじゃねぇんだけどさー。みんな昔からの知り合いだからよ。自然と時間があうんだよ。」 「うん。そうみたいだね。」 まだ、藍が輝義を追い掛け回していた。 「おーい!しくてる!バカアイ!!そろそろ間に合わなくなるぞ!」 「わかったよぉ〜。いこうかあいちゃん。」 「はぁい。ダーリン。こらぁ〜!!りょう!!バカアイとかいったでしょぉぉ!!」 「てめぇ・・。さっき、俺のこと馬鹿って言ってただろうが!そのお返しだぜ!」 といって、藍は今度は怜を追いかけ始めた。 輝義はもうやれやれって感じに肩をすくめていた。 そんなこんなで僕の新しい高校での生活は始まった。とりあえず、飽きることはなさそうだった。 藍と追いかけっこをしていた怜ヶ振り返る。 「あ、そうそう。真一。初登校なんだから、職員室いって、先生に挨拶してきたほうがいいかもしれねぇぞ。」 「うん。わかったよ。」 そういって僕と怜、藍、輝義に分かれて、 学校のなかに入っていった。 すぐになじめそうだったが。 僕はこの人たちも忘れてしまうのではないか。と不安に駆られつつ、廊下を歩いていった。 2章 フラッシュバック 職員室は校門から入ってすぐのところにあった。職員室だというのを確認して、 扉に貼り付けてある 「職員室に入るときは必ずノックをして 失礼します。 といって入ること 出るときは失礼しましたといって入ること。 職員は仕事中なので、騒がないこと。」 という紙を確認して、ノックをして、中に入る。 「失礼します。」 中に入るとコーヒーのにおいとタバコのにおいがした。ここだけ、学校の中とは違う。 仕事場のような雰囲気がある。 自分の担任の名前がわからなかったので、 (聞いたかもしれないけど忘れた。) その辺にいた、おそらく事務の人に尋ねて、 担任のつくえをみつけた。 担任はいかにも教師といった感じの メガネをかけた初老の男だった。 「えーっと、志木泊 真一君だね。」 「はい。東京都××からきました。 志木泊 真一です。」 「うん。よろしい。んで、君のクラスは 高島と同じ。3の×だ。この職員室の 階段上ってあぁ、そうだな。今日はわたしも一緒についていこう。」 「はい。よろしくお願いします。」 「じゃ、いこうか。」 といって、教師と僕は職員室から出た。 「失礼しました。」 階段を上ってると教師が話しかけてきた。 「高島の親戚と聞いてたからどんなヤツがくるかと思ったが。君はすばらしいね。ちゃんと挨拶できるし。」 「いえ。職員室の扉に書いてあったので。」 「いや。もう高校3年ともなると守るヤツはいなんだよなぁ。君もそうならないように頑張ってくれ。成績も良いほうみたいだし、期待してるからね。」 「はい。ありがとうございます。」 階段を上りきり、教室の扉の前に止まる。 ここが3の×か・・・。 「んじゃ、少し、待っててくれ。」 教師はそういって、教室の中へ入っていく。 僕ははいというと、自分の教室となる。ここまでの道を考えていた。明日、学校来て、違う教室に入っちゃかなわない。 扉がガラっとひらき、教師が中に入れと促した。 「んじゃぁ、紹介するぞ。今日から、3の×の仲間になる、志木泊 真一君だ。」 「志木泊真一です。よろしくお願いします。」 そういって、教室をぐるっと見渡すと、 右のはじっこのほうにりょうたちの仲良しグループのメンバーの机が固まってるのが見えた。 「もう3年となって半分切っている。 大変だとは思うが、みんな仲良くな。 席はそうだな。今もう3年の後期だから、 好きな位置にするといい。 とりあえず、高島の後ろが開いてるから、そこにいってくれ。」 「はい。」 そうそう。と教師が耳打ちをする。 「高島は遊び人だから、あいつには勉強を促すようにしてくれ。」 僕はうなずくと、りょうの後ろの席にすわった。 「ヨシッ!りょう一緒のクラスだな!」 「そうだね。」 「あらためてよろしくぅ〜。真一君」 「よろしくぅぅ!!真介!」 「よろしく。輝義。藍ちゃん」 といって、りょうに続き、輝義と藍も軽く挨拶を交わした。 「さて。そろそろホームルームを始めるか。 うーん。まだ着てないのか。しょうがない。はじめるか。」 教師は、独り言を言って、 腕時計をしきりに確認しながら ホームルームをはじめた。 こうして授業が始まった。 やはり僕の前住んでた所は都内だったから かもしれないが、少し進んでいるようで、 余裕でわかった。むぅぅぅ〜と悩んでいる藍と怜を輝義と教えつつ、授業をやる感じになった。怜はさっすがっ都内高校からの転校生!といいながら、調子に乗って僕の回答を写していた。 三時間目の日本史が終わりそうな頃、 教室のドアがバッターンと開き、女子生徒が入ってきた。 「こら。やっときたのか。」 「すみません。」 「まぁ、しょうがない。」 「母が病欠なもので。」 「はい。みんな注目!」 教師が言わなくてもみんなその女子生徒のほうを向いていた。なんだ?そんなに珍しいのか?短いショートカットヘアで綺麗な黒髪、綺麗な顔立ちだが、目が暗く。声のトーンはとても低い。そこまで注目をあびるほどの生徒には思えなかった。 冷めてるタイプに見えた。 何事にも動じないような。 「二人目の転校生を紹介する。志木泊と同じく今日転校してきた。」 僕以外にも転校生がいたのか・・。 それは注目を浴びる。 「片瀬 栞です。」 片瀬という苗字に驚いた。 いおねえと同じ。そして、 よく見るといおねえと身なりがとても似ていた。 「片瀬さんは志木泊の親戚だ。ってことは高島とも親戚か!まぁ、二人は高島のようにはならないように!」 「せんせい〜!ひどいっすよぉ!」 「まぁまぁ、席はそうだな。片瀬の隣が空いている。」 「はい。」 僕はとても驚いていた。 僕の親戚ってことはおそらくあの片瀬家しかない。と思う。だから、この片瀬栞は いおねえ。片瀬伊織の妹かなんかにあたるのかもしれない・・・。 栞が僕の隣の席に座る。 「よろしく。」 そういうと、軽くコクリとうなずいた。 そして、僕に小さな声で。 「いい色してるね。真一君」 と耳打ちをした。 僕はびっくりして、席をたち、 先生においどうしたといわれ、 りょうたちに笑われた。 4時間目はとても気分がすぐれなかった。 別にいおねえの妹がきても具合が悪くなるわけではない。 たしかに可愛いし、綺麗な顔たちだけど、僕は恋愛対象にみてなかったし、そういう気持ちとも違うんだなぁ。と思った。 でも、もう考える余裕もほとんどなく。 まるで、頭になにか変なものを詰め込まれてる間隔に陥った。 とにかく頭が痛く。目がチカチカした。 なぜか、チカチカしてる目の前に いおねえの顔が浮かんでいた 「おい。ダイジョブか?」 「え?・・。あ、うん」 「先生ぇ!真一が具合悪そうなんですけど!「どうした?志木泊。大丈夫か?」 「だ、大丈夫です。」 「顔色が悪いな・・・。悪いんだけど誰か 志木泊を保健室まで連れて行ってくれ。」 もう受験のこの時期だ。 誰一人、いや、りょうの仲良しグループ以外はみんな参考書を読み、授業が止まっている今でさえ、ペンを止める人はいなかった。 りょうが自分がといおうとしたとき。 「わたしが・・・。つれていきます・・・。」 と席を立ったのは片瀬栞だった。 「高島くんは受験の時期でしょう。わたしの学校。結構先まで進んでたから大丈夫なの。先生いいですか。」 「あぁ、そうだな。親戚なら、話しやすいだろうし、片瀬の前の学校は超進学校だもんな。 しばらく志木泊の様子もみてきてくれ。お昼休みまで様子みてていいから。」 「わかりました。」 そういって、片瀬栞は僕に肩を貸すようにして、一緒に教室を出た。後ろから。おぉって声が聞こえたが、多分怜たちだろう。というか、こんな大事な時期に野次馬精神を発揮できるほどの暇人は怜しかいなかった。 保健室は階段を下りて、職員室の隣にあった。 目がチカチカしてて、ここがどこだか。 わけがわからなくなっていた。 ガラって音がして、薬の独特のにおいが漂ってくる。 「××××××」 栞が入るときに何かいったのだが、それを聞き取れる状態じゃなかった。 「××××××」 「××××××」 「××××××××」 栞が誰かと会話をしていたが、それも同じく聞き取れなかった。 ベッドに寝かしてもらうと急に意識が遠のいて行った。 最後に見たのは。 あの無表情しか出さなそうな。片瀬栞が 僕の目を見て、悲しそうな顔をしているところだった。 3章 思い出 「おはよう。真一」 「ん・・・。」 「まだ眠いの?」 なんだか、夢を見ているようだった。 僕はいおねえにひざまくらをしてもらっていた。 「なんか、変な夢見た」 「どんな夢?」 「いおねえがいなくて、いおねえの妹が転校してくるの。」 「栞のことかな。」 「そう。」 「どんな子だった?」 「おとなしかったよ。」 「そう。おとなしいのかもね。」 この辺から気づき始めた。 これは夢なんかじゃなかった。 これは僕の記憶だ。 曖昧という枠に押し込められてしまっていた どこかに忘れてきた記憶。 そう。これは夢の出来事だ。 じゃあ、なぜ、過去に知るはずのない情報を知っている・・・? 「真一は相も変わらず夢見が多いね。」 「ゆめみって?」 「正夢みたいなものかな?ごめん。わたしもわかんないかも。」 ふふふといっていおねえは僕に微笑んだ。 僕も笑った。 ゴツンという音がする。 音が頭をたたいた。 おもちゃが僕の上から降ってきたようだ。 「あ・・・。」 といった子供が落としたようだった。 僕もこの過去の世界では子供だ。 同い年ぐらいだろうか。 でも、顔が黒くなってて見えない。 記憶がかけているのかもしれない。 「こら、××君。なにしてんの」 うまく聞き取れない。何君だって? 「だって。」 「だってじゃないの。真一君に謝りなさい。 「ごめんなさい。」 「いいこいいこ。」 そういって僕とこいつはいおねえにひざまくらをしてもらっていた。 なんだこれ・・・。 こんな記憶はないはずだ。 少なくとも、曖昧な記憶でもこいつに会ったことぐらい覚えててもおかしくないのだ。 「ねえちゃん・・。」 そいつはいおねえの膝枕から立って、いおねえに向かっていった。 「どうしたの?」 「これ、見て。」 なんだこれ。黒い丸いものをこいつは持っていた。そうか。ここも記憶がかけてるのかもしれない。 いおねえは急に顔色を変えて僕にのしかかってきた。おもいよ。おもいよいおねえ。 「おもいよ。」 そういってもいおねえは僕にのしかかってきた。そして、過去の世界だか、夢の世界だかはわからないけど、この世界が黒く、黒く消えていった。もしかしたら、ここまでしか覚えていないのかもしれない。 僕はもっといおねえといたいと思った。 いおねえの笑顔を見たいと思った。 この世界が完全に真っ暗になると 遠くから子守唄のようなものが聞こえてきた 「××××××××」 それはよく聞き取れなかったが綺麗な音色になっていた。 その音の聴こえるほうへ向くと黒い世界は段々白く白く塗りつぶされていった。 「あ・・・。」 目がまぶしくてなにも見えない。 声がしたほうへ僕は 「いおねえ?」 といってしまった。 この世界は現実だ。 多分過去のものでも、夢のものでもない。 ここにいおねえがいるなんてこと ありえないのに。 「真一君。起きたの?」 声の主はそういった。いおねえの声に似てたけど、もっと高い声だった。 目が段々と回復していく、そこには片瀬栞がいた。 「あ、うん。おはよう。ここは・・?」 「保健室だよ・・・。」 「保健の先生は?」 「何か必要なものがあるとか・・・。」 「そっか。ずっと見ててくれたの?」 「ううん。1時間くらいだよ。もうすぐお昼休みだと思う・・・。」 時計を見ると十二時半になるところだった。 「ほんとだ。ありがとう。片瀬さん」 「ううん。栞でいいの・・・。」 「ありがとう栞さん。」 「うん・・・。ね・・・。」 「何?」 「さっきいおねえって・・・。」 「あぁ!ごめんごめん。昔遊んでくれたお姉さんがいてさ、その人も片瀬っていうんだけど」 「片瀬伊織?」 「そう。よくわかったね。」 「もう隠さなくていいよ・・・。真一君わたしの顔を見てわかったはず。」 「いや、わかんなかったよ。名前聞いてあれ?とは思ったけどね。」 やっぱり、栞は伊織の妹だった。 「伊織姉さん。どんな人だった?」 「なんで僕に聞くの?栞さんのほうが知ってるでしょ?」 「ううん。わたし一緒に住んでなかったから。 」 栞がここまでしゃべる人だとは思ってなかった。 「そっかぁ。僕も小さい頃に遊んだだけだし・・・。」 「×××」 聞き取れなかった。 「え?今なんていったの?」 「さっき姉さんにあってたでしょ。」 僕は驚いた。 鏡でそのときの僕の顔を見たい。 そのとき、僕は驚きで、背筋に氷を突き刺したように動かなくなってしまった。 「さっき姉さんを呼んだから。」 そう。彼女は僕の発言からそれを予想した。 本当にあったという意味ではなく、 夢の中であった。きっとそう思ったんだ。 それにしてもなぜか不気味だった。 この子は僕のことすべて知ってるんじゃないだろうか。姉と遊んでいたことは勿論。 僕が忘れやすいことも。何もかも。 そんな気がしてならなかった。 「うん。そんなとこ。」 「ねえさんどうだった?」 「優しかったよ。」 「優しいんだ。」 「うん。あとよくわからないところが・・・。」 「夢の中だからしょうがないよ。」 「そうだね。考えてもわからないしね。」 「うん。ね。」 「何?」 「お昼ご飯食べる?」 「でも、僕、弁当教室に・・・。」 「それなら、わたしとってくる。」 さすがに悪いので、自分がいくよというと 「いいの。真一君はまだ完全になおったわけじゃないでしょう。」 「でも・・・。」 「いいの。」 以外に栞は頑固者なんじゃないだろうか。 そんな気持ちが浮かんできた。 栞の好意に甘え僕はそのままベッドに 寄りかかった。 すぐに栞が帰ってくるだろうとは思いつつも 僕はまた目を閉じて眠りについた。 「おまたせ〜って寝ちゃったのかな?」 「うん?」 目を開けるといおねえが両手にアイスクリームを持って扉を開けていた。 「あ、起きちゃった。ごめんね。」 「いいよ。いおねえ。」 「これ、買ってきたの。一緒に食べよ。」 「うん!」 そういって僕といおねえは二人でアイスクリームを舐めた。 なぜか、背筋がゾクリとした。 いおねえが座ってる後ろに 引き戸がある。 そこに手がはみ出ていた。 目はこっちを見て、羨ましそうにしている。 さっきの夢にでてきたアイツだった。 おかしい。 こんな記憶はない。 いくら曖昧な記憶とはいえ、 小さい頃に体験したことだ。 なのに。なぜか僕の記憶が改ざんされてる。 でも、そんなことはできない。 できるがいるとすればそう。僕だ。 なんでこんな妄想をするのだろう。 わからない。僕は何かを隠しているのかもしれない。 知らず知らずのうちに忘れよう。忘れようとしてるのかもしれない。しかし、なぜ、今となってその記憶がよみがえる? そして、なぜ、アイツの記憶はかけてるんだろう・・・。 考えても考えても答えはでなかった。 過去の僕の気持ちが干渉してくる。 僕はその引き戸をあけたくてあけたくて仕方なかった。 アイスをバクバクバクっとすばやく食べて。 「いおねぇ。久しぶりに外にいこうよ」 といった。アイス片手に ちょっとまってといういおねえの手を引っ張って、戸を開ける。 そう思ったとき目が覚めた。 また心配そうに栞が僕の顔を覗き込んでいた。 「おはよう。」 そういうと少し笑って。 「おはよう・・・。」 と栞は涙をこぼしながら言った。 4章 栞  1 「おはよう。」 そう言った真一君にわたしは 泣きながらおはようと返してしまった。 きっと真一君は心の中で困っていた。 嘘の表情を作って嘘の会話をし、嘘の生活を送る真一君。わたしにはわかっていた。 それはわたしが昔に真一君にあったことがあるからだ。と思う。 真一君に出会ったのは十年以上前。 伊織姉さんより会うのが先だった。 伊織姉さんはいつもおばさんと生活してたし 私はお母さんとお父さんと暮らしていた。 そんなある日のことだった。 お父さんが 「栞。ちょっと公園で遊んでらっしゃい。」 といった。不思議だった。 私は外で遊ぶことが少なかった。 「親戚がうちに集まるのよ。」 「時間もかかるし、外で遊んできたほうが退屈じゃないかと思って。」 「栞は友達も少ないし。心配なのよ。」 「うん。こんな機会にいいと思って。」 そういわれて、私は公園へと向かった。 公園までは道いっぽんはさんで向こう側。 すぐについた。 私は始めてみる公園に興奮した。 ブランコ、シーソー、砂場。 いろんなところで知らない友達といっぱい遊んだ。とっても楽しかった。 そこで、ベンチでうずくまってる男の子を 見つけた。それが真一君だった。 真一君はとても悲しい目をしていた。 近づいても私に気づく様子はなかった。 だからは私はお母さんとお父さんにもらった少ない小遣いを叩いて、ジュースを買った。 ポカリスウェットにしようと思ったけど。 男の子は何がすきなのかわからなくて、 サイダーを買ってみた。 私の飲んだことのない。炭酸というものが入ってるらしい。 私は真一君に上げた。 「これ、あげる」 真一君は悲しそうな顔をやめなかったけど、 それでも顔を上げただけマシだと思った。 「大変だったね」 私には生まれつき変な力があった。 人の雰囲気を色で捉えることができた。 真一君は灰色くなっていた。 白い綺麗な色に交ざる。まだらな黒。 それはなんだかわからないけど、大変そうだった。 でも大変だったね。といったあとに真一君は ビクッした。 私は言わなきゃよかったかもしれない。と後悔した。 そして、真一君は私を見つめた。 私は真一君に笑ってほしかった。 だから私は笑顔を作った。今はもうできない この頃だからこそ。できる笑顔を作った。 真一君も少し嬉しそうにしたけど、 すぐに悲しそうになって、震えてるのがわかった。ジュースを飲めば変わるかもしれない 私はそう思った。 「どうしたの?ジュース飲まないの?」 飲んでほしかった。元気になってほしかった。 ううん。元気な顔が見たかったのかもしれない。 けど、真一君はジュースに口をつけず。 震えはもっと強くなった。 「お姉さんもあの大人の人たちと同じなの?」 真一君は小さく怯えてるから、私のことがお姉さんに見えるのだと思った。 大人の人たちって誰のことだかわからなかったけど、真一君は頑張って私に言ったんだから、私も答えてあげないと駄目だな。と思った。 「ううん。私は君がどうして大変だかは知らない。」 私は素直に言った。単純に。 「なら、どうして。ジュースくれて。大変だって」 「君の色が薄れてるから・・・。」 これは言わないほうがよかったかもしれない。 そう言ったあとで後悔した。 お父さんに言ったときも、お母さんに言ったときも、私は馬鹿な子みたいにとられてしまった。少し想像力の豊かな子のほうがあとあと育つみたいなことを言っていた。 私はわかった。お母さんとお父さんが本当に 信じていないと。少ない友達に話してもそうだった。誰も色のことなんか信じてくれなかった。 「色って?僕は肌色だよ。青い服着てるけど みんな肌色だよ。」 真一君は違った捉え方をしてしまったみたいだった。でも、私は否定されなかっただけ とっても嬉しかった。 「なんて言ったらいいかわからないけど、 君はいい色してるよ。けど、黒い人たちが入ってきて 君は灰色になりかけてる。」 私は真一君が座ってるベンチの横に座って 真一君の顔を見ながら、続けた。 「このままだと、君は私みたいになっちゃうから、ううん。もっとひどいかもしれない。 だから、私はあなたと遊んであげるの。」 私はもう完全な灰色になっていた。 理由はわからない。でも、真一君は まだ助かると思ったから。 だから私は遊んであげる。 これで直るのか、わからないけど。 でも、私にできるのはそれぐらいだから。 でも、言ってよかったと思った。 真一君はやっと私を信じてくれて 笑顔になってくれた。 「私の名前は片瀬 栞。あなたの名前は?」 「僕は志木泊 真一」 「よろしくね。真一君。」 私は真一君の笑顔がとても好きだ。 だから、この学校に転校してきたとき ビックリした。 真一君は白く綺麗な色にはなっていたけど 真一君が嘘の笑いを振りまいて、 心の中じゃ無表情だったから。 白くなった真一君というのは こういうものだったのかな。 私は自分がしたことに後悔を感じて とても悲しかった。 それともうひとつ。 私のことを忘れていたから。 私のこと真一君は知らないから。 2 栞は目を真っ赤に腫らしながらも 明るい笑顔を作って笑ってくれた。 初めて会ったときには知らなかった笑顔 僕は勝手に栞のことを勘違いしてたかもしれない。 最初あったときには感じられなかった 暖かさみたいなものを栞に感じたのかもしれない。 「大丈夫?」 「ん・・・。うん。ちょっと目にゴミが入ったの・・・。」 「そっか。」 そんなことじゃないのはわかっていたけど、 僕はあえて言葉に出さず。栞の顔を見つめた。 最初、教室ではわからなかったけど、 栞の目は大きくて可愛かった。 僕はかつて片瀬家でお世話になったことを思い出して、聞くことにした。 結局僕は、覚えてもいないような人のことを 聞きたいのだろうか。 いおねえはどうしたのか。 肝心なことを覚えていない僕が本当に 聞きたいのはそこだったのかもしれない。 「あのさ・・・。」 「ん・・・。ごめんなさい・・・。あ、 お弁当。持ってきたよ」 「うん。そのことじゃなくて。」 「うん。」 「片瀬のおじさんとおばさん元気?」 「え?・・・。お父さんとお母さん?」 一回いえばわかることじゃないのだろうか。 栞はなぜか、繰り返し聞いた。 「栞さんは一緒に住んでなかったから知らないのかもしれないけどさ 僕、片瀬の家に住まわせてもらってたことがあって。おじさんとおばさん元気かなぁと 思ってね。」 「そっか・・・。真一君知らないんだね。」 栞は作った笑顔を僕に壊されたかのように 顔がこわばり、また暗い栞に戻ってしまっていた。 何か悪いこと言ったのだろうか。 「ごめん・・・。聞かないほうがよかった?」 「ううん・・・。お父さんとお母さんね。 だいぶ昔になくなったの。」 「え?」 沈黙が少し続いた。 あまり印象に残っていない片瀬のおじさんと おばさんはもう亡くなったという。 さすがに、記憶が曖昧とはいえ、 こんなことを忘れるわけがない。 お世話になった人がなくなった。 いつも預かってもらってる身とはいえ、 預かってもらっていた家は僕と親戚ということになる。 当然、片瀬家とは経緯は知らないけど、 結構近い家系になる僕の親戚は片瀬家の 情報ぐらいすぐ入ってくるはずなのだ。 なのに、なのに僕は。 どうして片瀬家のおじさんとおばさんが亡くなったことを知らない。 今までは曖昧ですんでいた。 なんとなく。なんとなくは覚えていた。 だけど、片瀬のおじさんとおばさんが なくなったことははじめて知った気がした。 というより、初めて知った。 曖昧に記憶をしまっておくことしかできない 僕なのに、こんな風に思ったことは初めてだった。 「どれぐらいなんだろう。おばあちゃんから聞いた話だと、真一君が他の家に引き取られてすぐだったと思う・・・。」 おかしい。引き取られてすぐだったら、なぜ なぜ、僕が知らないんだ・・・。 「そっか・・・。ごめん。小さかったからかな?覚えてなかったよ。」 「ううん。いいの・・・。 それよりも真一君。」 「うん?」 「聞きたいことはそれだけじゃないよね?」 ゾクリと背筋に鉄を流し込まれたような気持ちになった。 なぜ栞は僕の思ってることがわかるのだろうか。 「伊織姉さんのこと聞きたいんだよね?」 「う・・。うん。」 「ごめんね。怖がらないでね。 私なんとなく考えてることわかるの。 その人の顔みてるとね。なんとなく。」 「そ、そうなんだ・・・。 いおねえはどうしてるの?」 「一緒に住んでなかったからわかんないけど、 どうなんだろう・・・。」 「え?」 「だいぶ昔に、海外留学って話を聞いたけど・・・。今は一人暮らしとか、新しい家族がいるのかな?」 聞いてるのは僕のほうだ。 まるで、栞はいおねえのことは 全く知らないようなそぶりをしている。 わからない。そぶりじゃないのかもしれない。 栞は本当にいおねえのことを知らないのかもしれない。 「どういうこと?」 「おばあちゃんもね。あまり、口を開きたがらないの。だから・・・。ごめんね。」 少し、残念だったけれど、 僕が知る必要のない。片瀬家の事情というものがあるのだろう。 これ以上詮索するのもなんなので、 そっか。といって 僕は弁当を受け取り、食べ始めた。 途中栞が食べさせようとして、二人で 笑った。 普段冷たそうな栞の顔がとても可愛く感じた。 弁当を食べつつ、栞との談話をしていると 気分はいつの間にかだいぶ良くなっていた。 5章 先輩 五時間目に戻ると、怜が栞といたことを からかってきた。 栞は僕と一緒にいたときの顔とはいっぺんし 冷たい表情のまま授業を受けていた。 栞も僕と同じなのかもしれない。 表面上の自分を繕い。 表面上の関係を築く。 僕はそうやって生きてくしかなかったんだ。 彼女もそうなのかもしれない。 僕たちだけじゃない。 人間は誰でもそういう面を持ってるのかもしれない。 素直に自分の思ったまま、行動できるのは 無邪気な子供のうちだけだ。 大人は自分の感情を押し殺すしかない。 僕たちもそういう時期に入ってるのかもしれないと思った。 もしかしたら、怜の明るさも藍の無邪気さも 輝義の天然さ、も沙希先輩のするどさも みんなそうやって作ってるのかもしれない そう考えている僕は最低だと思った。 何事も楽しければいいんじゃないんだろうか。 そうも思った。 考えてるうちに六時間目とホームルームは終わった。 「今日は×××と×××が掃除斑だから、 片瀬と志木泊の斑は掃除じゃないからかえっていいぞ。親御さんたちにいろいろ渡すものがあるから、このあと職員室にだけきてくれ。」 僕と栞は、はいと返事をした。 「んじゃ、まぁ、帰りますか!しんちゃん!」 そういって怜が元気に駆け寄ってきた。 「あ、このあと職員室におじさんたちに渡すものとりいかなきゃなんだけど。」 「あ、そうなん?んじゃ〜。校門のとこで待ってるよ!どうせ、この後暇だろ!」 「そうだね。街のことも知りたいし。」 俺らがいつも溜まってるとこつれてってやるよ!といいつつ、怜たちは教室から出て行った。 「真一君。一緒にいく?」 もう行ったと思っていたら、 栞はまだその場にいた。 「どうせいくなら、一緒にいこうか。」 「うん。」 栞は少しはにかんだ。 一緒に教室を出て、 階段を下りていたとき、 前を歩いていた、栞が止まった。 僕は急に止まった栞に軽くぶつかってしまった。 「あ、ごめん。どうしたの?」 「ううん。なんでもない。」 「そっか・・・。」 「あのね。真一君。」 「ん?」 「そんなにいおねえのこと知りたいなら。 うちに来ない?」 ドキリとした。 家に来ない?といわれたことだけじゃなく、 その表情は保健室で僕と二人きりのときに みせた栞の表情だったからだった。 「でもそこまで知りたいとは思わないし・・・。」 本心は違う。 でも、そこまで詮索して気を悪くしたくないのも事実だ。 「ううん・・・。おばあちゃんに聞いても教えてくれないかもしれないし、たいしたこともわからないかもしれない。それとは全く 別に、私が、真一君に見せたいものがあるから。」 そういわれて、またドキリとした。 この年で、そういうことを言われて、ドキリとしない健全な男子はいるのだろうか。 僕はそれこそ、あうあうあと口がパクパクし、 頭のなかが火を噴いたように真っ白になった。 「あ、今日は色々あるから、明日でいい?」 栞は半ば強引に話を進めた。 僕はもう何も考えることができなくて、 わかったという言葉だけ絞りだすと、 そのころ栞はもう職員室に向かっていて、 僕はあわてて、栞を追いかけていった。 職員室ではすぐに用事はすんで、 栞と僕は玄関で別れた。 一緒に帰るか聞いたけど、 方角が違うからといわれ、玄関で別れることになった。 また明日といって、 僕は校門のほうへ向かっていった。 校庭で部活をやってるところを邪魔しないように横切ると、校門で二人が待ってるのが 見えた。